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706便事故裁判第12回公判速報

6月9日 706便事故 第12回公判 速報

酒井 証人(羽田整備事業部品質管理部長)

に対する検察側・弁護側尋問と証言から(要旨抜粋)

6月9日、706便事故 第12回公判では、表記証人尋問が行われました。以下は、機長組合による要約録取の概要です。詳細は別途お知らせします。

<検察側尋問>

Ø 電磁波干渉(EMI)について

検察:証人は、97年から整備本部技術部システム技術室電装グループに在籍していたが、どのような業務を行うのか?

証人:航空機の電子システムに対して、仕様の決定・不具合解析・改善の必要があればその改善策の検討だ。(AUTOPILOTのLOGIC、例えばどの様な時にAPがDisconnectするのか等については)担当していないので詳しくない。

検察:電磁波干渉(EMI)に関わってきたか?

証人:はい。

検察:電磁波干渉とは何か?

証人:携帯電子機器等の発している電波が、航空機に何らかの形で影響を及ぼす事だ。

検察:電磁波干渉についての研究はどうか?

証人:96年に電気学会誌に「航空機客室内における電磁波干渉」について論文を寄稿した。又、航空振興財団の委員として「航空機内で使用する電子機器の電磁干渉波」の研究をやった。

検察:電磁波干渉が知られるようになったのは何時か?

証人:1950年から60年頃だ。米国で、「携帯FMラジオが航法システムの一つであるVOR(超短波全方向無線標識)に影響を与える」との報告がされたのが始まりだ。容易に再現でき、因果関係は明確になった。

*VOR:地上施設から放射した電波を受信した航空機が、自己の飛行位置がどの方向なのかを知る航法装置。

検察:再現性が得られたという事の意味は?

証人:地上で確認が出来るという事だ。再現出来たらかなり因果関係が深いと言える。

検察:米国の事例以降で、再現性が得られた事例は?

証人:知らない。

検察:米国での電磁波干渉の研究機関は?

証人:アメリカ連邦航空局(FAA)とアメリカ航空無線技術委員会(RTCA)だ。RTCAの報告書に航空会社からの(電磁波干渉事例の)報告が紹介されている。航法システムへの影響が多いとある。

検察:(その中で)地上再現できたものは?

証人:報告書にその事の記載はなかったが、飛行中に乗客に(携帯電子機器の)スイッチを切ってもらったら不具合が解消され、スイッチをいれたら再現されたという記載があった。

検察:飛行中に再現できたので、因果関係があったということか?

証人:報告書では踏み込んでいないが、私はあると思う。RTCAはその後も(電磁波干渉の)メカニズムの研究を継続し、可能性として報告している。

検察:どのような影響があるのか?

証人:客室内からの携帯電子機器の電波が客室の窓から外に出て、機体に装着されているアンテナから電波として受信されて機内に入るが、それが航空機システムへどのような影響を与えたかは分らない。

検察:日本航空内での電磁波障害報告書で、「DC-10でのAP(AUTOPILOT)Disconnectで電磁波干渉が疑われた事例」の報告があるが、再現は出来たか?

証人:出来ていない。因果関係も明らかではないが、可能性としてはある。APについては、コンピューターの内部に直接、又は配線のところに(電磁波の影響の)可能性はあるが、コンピューターへの影響については解明されていない。

検察:電磁波干渉で、物理的に機体が上下する事はあるか?

証人:無いと思う。電磁波で物を動かす事はない。MD-11はFLY BY CABLE(注:操縦するために動翼をFLY BY WIREのような電気的ではなく、CABLE、滑車等で機械的に動かす仕組み)なので、CABLEを電磁波が動かす事はない。

Ø DFDR、ADASデーターのグラフについて

検察:DFDR(Digital Flight Data Recorder)とADAS(Auxiliary Data Acquisition System)のデーターで(706便)事故原因の解析を出来るか?

証人:私は出来ない。その立場ではない。

検察:AP解除の理由が、電磁波干渉かどうか(DFDR・ADASのデーターで)分るか?

証人:分らない。

検察:CWS(CONTROL WHEEL SENSOR)の値が変動しているが、電磁波干渉によるものか?

証人:これだけでは分らないが、電波が電線に乗り、影響する可能性はある。

検察:AP FCC(FLIGHT CONTROL COMPUTER)への影響はどうか?

証人:ありうるが、APの仕組みが分らないので何とも言えない。

<弁護側尋問>

Ø 機器の不具合点検について

弁護人:前々回の和田証人、前回の阿部証人は、事故当時証人の部下であったか?

証人:そうだ。

弁護人:航空機の機器が、発生した不具合を自分で検知する機能はあるか?

証人:BITE(Built In Test Equipment:自己診断機能)で検知する。MD-11のBITE機能については、MD-11が短期間で開発されたため整備用コンピューターが充実されておらず、747-400と比べて劣っている。MD-11ではFAAが要求する安全レベルは満足しているが、FCCなどの不具合を検知する範囲が狭い。706便では、整備の点検で「Right Inboard Elevator」の不具合が表示されていたが、-400ではFCCの不具合の原因等が分る。B-777では更に進んで、悪い個所を列挙し、悪い順番から表示する。

弁護人:RTS TEST(Return To Service Test:機器に不具合があるか否かテストし、問題なければまた航空機で使用できるというテスト)で不具合を発見できない時、飛行中も不具合がないと言えるか?

証人:RTSはTEST時の不具合を見ている。全てを見ているわけではない。

弁護人:ATE(AUTOMATIC TEST EQUIPMENT:取り卸した部品を工場で試験する機器)で試験の結果、不具合がない時そのコンピューターに不具合がないと言えるのか?

証人:SOFT WAREを全く見ていない。ATEでの試験では試験用SOFTをのせるので、元々のSOFT WAREは消されてしまう。HARD WAREのCHECKとなる。又、試験では飛行中の高度、温度、湿度、振動は再現できず、(不具合を)見過ごす可能性もある。

Ø 電磁波干渉について

弁護人:LVDT(Linear Variable Differential Transformer:エレベーターの舵角を検知して、FCCに報告する機構)についてだが、Elevatorの舵角は何ボルトか?

証人:舵角1°で0.4ボルト変化する。

弁護人:一般的な可能性として、0.4ボルトの電圧は電磁波干渉の影響を受けるか?

証人:LVDTとFCC間が長い電線で結ばれており、強い電波が乗ればありうる。

弁護人:乗客の持ち込む携帯電子機器で強い電波のものは?

証人:携帯電話などは、ゲーム機等に比べて10万倍から100万倍位の電波が出ている。

弁護人:FCCからELEVATOR(昇降舵)へ出すSIGNAL、FCC SOFT、内部メカニズムに電磁波干渉は影響を及ぼすか?

証人:可能性としてある。

弁護人: FCCは、LVDTから報告された実際の舵角と、自分が指示した舵角を比較するが、一つの可能性として、間違った信号を発している事もあるか?

証人:ありうる。

弁護人:(携帯電子機器の機内持ち込みについての制限は)電磁波干渉が、万が一発生する可能性があるからか?

証人:はい。世界で多くの事例が報告されている。それが再現できるかどうかが問題ではなく、起きたという事実がある。乗客を安全に運ぶ、不安全要素を無くすために離着陸時にはスイッチを切る、更に強い電波のものは常時OFFとお願いしている。

弁護人:電磁波干渉の年間の事例数は?

証人:覚えていないが、増えていると思う。

Ø DFDR・ADASのDATAについて

弁護人:電磁波が影響して、操縦桿を物理的に動かす力はあるか?

証人:ない。

弁護人:FCC、各パラメーターのSENSORについてはどうか?

証人:(SENSORには電磁波の影響は)ある。

<検察からの再尋問>

検察:携帯電話の電波の強さはGAME機と比べると、10万倍から100万倍とのことだが、ELEVATORを1°動かすための0.4ボルトには携帯電話何台必要かとの実験は?

証人:していない。

検察:強い電波の実験は?

証人:やってないが、長い電線はアンテナになるので長ければ長いほど電波は強くなり、機材は金属に囲まれているので2~3倍になるので一概には言えない。

検察:東京地検での取り調べは一日か?

証人:午後5時より前に終わったと思う。

検察:調書を作成する時は、正確に答えたか?

証人:はい。

検察:調書の内容を読んで確認したか?

証人:はい。

<裁判官からの質問>

裁判官:ATE TESTで問題なしの時、そのコンピューターはどう扱われるのか?

証人:予備品として置いておくか、(予防的に)部品を交換することもある。

裁判官:ATE TESTで不具合がない時でも、CHECKする事があるのか?

証人:経験として、ここを直せば良いという場合もある。

次回 第13回公判 03年6月30日(月)10時~17時

◇ 運航部気象グループマネージャー 藤堂 憲幸氏

に対する検察官主尋問と弁護側反対尋問

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