jfu Jamaika  

NASAの疲労研究で判明

NASAが操縦席でのレストの研究をしていることは、これまでの速報でもお知らせしましたが、研究内容についてワシントン・ポスト紙の記事を入手しましたので、抄訳をお届けします。
記事の原文には、記載がありませんが、ICAO Journalの論文によれば、疲労調査が行われたフライトは、ノースウエスト航空・ウナイテッド航空の、HNL/NRT、HNL/OSAの昼間のフライトとOSA/HNL、の夜間フライトで、最短レグで7時間、最長レグで9時間半のフライトです。
休憩のないフライトでは乗務時間9時間程度であっても、着陸前の90分間に、多数のマイクロ・スリープが発生することが検証されました。マイクロ・スリープは降下・着陸のフェーズでも発生しています。(マイクロ・スリープ:数秒間以上意識を失う現象)
このことは、日本航空が交替乗員なし、休憩なしで、11時間の乗務を強行しているサンフランシスコ線等の運航で「安全性が損なわれている」という、組合員多数の声を裏付ける内容になっています。
この研究結果では、機上での仮眠が「疲労の救済として有効」「疲労によるパフォーマンスの低下を少なくする」としています。FAAはシングル編成でも操縦席での仮眠をとることの制度化を検討しているとしていますが、この点は本末転倒であり、認められるものではありません。
また、この調査は3名編成機のみで行われたこと。FAR(連邦航空法)では2名編成機の乗務時間は8時間に制限されていることは忘れてはなりません。
明らかなことは、9時間程度を越える長時間乗務では、マイクロ・スリープ発生などで示されるように 覚醒度(alertness・注意力)の低下、疲労による能力の低下が起こり安全性が低下するということです。
そして、すぐにも可能な対策は、交替乗員を乗せるということです。

「見張りの義務」などの航空法上の義務に違反し、乗員の良心を捨て、交替で違法な休憩を取ることが解決ではありません。
これまでの会社の主張は、「過大な疲労のみが、運航の安全性に影響する。11時間シングル編成乗務は開始前に十分に検証したから大丈夫。(巌本部長)」「眠くなったら、トイレに行くとか、離席するとか離席して屈伸運動をすればよい。(中野副本部長)」など、あまりに非科学的なものとなっています。航空会社の運航の最高責任者として極めて情けなく、残念なことです。

会社の安全軽視、無責任、現場無視の姿勢を、組合に終結して皆野力で変えていきましょう。

ワシントン・ポスト紙記事 1994年12月26日
(ワシントン・ポストKathy Sawyer執筆)抄訳
航空事故発生のメカニズムを解く方程式に「疲労」の要素を導入

1993年8月18日、キューバ、グアンタナモ湾に着陸直前のDC-8貨物機は、旋回中、コントロールを失い、墜落炎上した。3人の乗員は、重傷を負った。
この事故は、一般市民の目には殆どとまらなかったが、昨年春、NTSBが事故の推定原因は「乗員の疲労」と結論したことは、歴史的な展開であった。
セーフティーレポートシステムに非公式に報告されているインシデントの内、21パーセントのじれは、乗員の疲労がひとつの原因となっている。ボーイング社が政府のデータを分析したところ、1959年から今日までの全損事故の内75パーセントが乗員のエラー(疲労が誘因となったかもしれない)によるものだった。それにもかかわらず、NTSBが公式に「疲労」が事故原因だと結論を下したのは、この事故が初めてのケースである。
NASAのAmes研究所で「疲労」を研究しているMark R. Rosekindは、「NTSBがグアンタナモ湾の事故原因を疲労と断定したことは、その結論を裏付けるだけの手法と科学的根拠をNTSBが確立したということだ。」と述べている。
「疲労を検証する」

Rosekindによれば、ある時点での「疲労」の存在を検証し、その影響を測定し、その疲労に対する対策の有効性を評価することは、実験室以外では、驚く程に困難だ(あまりに単純で当たり前な、仮眠のような対策でさえ、評価は困難だ)。1980年依以来、NASAヒューマンファクター研究部で、Rosekindらは、現場で「疲労」がもたらす結末、つまり、生命を脅かすような事故を引き起こす潜在的な危険性については、ほとんど無視されて来た。
『我々は、「疲労」を「大した問題ではない」と不問に付している。我々は、極めて無知である。』とRosekindは言う。
研究結果によれば、睡眠不足がある限界点まで行くと、たとえその時点の状況が、生死をわかつような危険な場合であっったとしても、人間は脳が出す睡眠指令に意志の力で打ち勝つことが出来なくなる。自動車の運転中に、居眠りをしてしまった人のことを誰もが知っている。しかし、人間は自己の疲労度を極端に過小に判断してしまう。」とRosekindは言う。
彼らは最近、FAAとの共同研究で、「疲労」が長距離洋上飛行のパイロットに及ぼす重大な影響を明らかにした。
パイロットと同乗

1990年、研究者達は、太平洋線の定期便に、21名のB747パイロットと同乗し、調査を行った。
パイロットは、休憩を取るグループと取らないグループに、無作為に分けられた。休憩を取るグループのパイロットは、巡航中に、操縦席に座ったままで、最長40分までの仮眠(in-flight nap)を取ることが許された。(安全のため、休憩時間は、2名のパイロットで重ならず、降下・着陸という厳しいフェーズに入る少なくとも1時間前には終了するように設定された。
各フライトでは、2名の研究者が運航乗務員を観察した。12日間の離基地日数の間に8回の乗務を行う勤務のパターンの内、中間の4回の乗務について調査が行われた。各フライトは、乗務時間約9時間で、乗務前には24時間の休憩(宿泊)が与えられた。調査対象の4フライトの内、2フライトが東むき飛行、2つが西向き飛行で、若干の夜間飛行も含まれてういた。測定用電極がパイロットの頭皮と顔面に取り付けられ、脳波と眼球運動が連続して記録された。
休憩時間は40分に制限されたが、この点については「仮眠の時間が短ければ、深い睡眠サイクルに入る可能性が減る。」とRosekindは言う。
この研究では、2つの項目の測定が行われたが、ひとつは、眠りこまない(意識を失わない)ことを含めた覚醒度(alertness)である。休憩無しのグループでは数秒以上、意識を失うマイクロ・スリープが、合計120回記録され、その内22回は降下・着陸段階のものだった。(5秒以上の事象を記録)
一方、休憩を取るグループではマイクロ・スリープ発生は34回で、降下・着陸時には発生しなかった。
睡眠要求

研究者達が驚いたのは、休憩無しグループの4人のベテランパイロットが、睡眠要求が大きいために、5回にわたって、眠りこんでしまったことがある・それも、電極を付けて、2名の研究者が肩越しにのぞき込んでいる状態で!Rosekindによれば、「ひとりは14分も眠っていた!」とのことだ。
「このことは、「訓練を積んでも、プロフェッショナリズムがあっても、また、いかに最良の適性(“right stuff”)をもってしても、極度の眠気(sleepiness)は自己の意志で抑制不能な睡眠を引き起こす」ということを裏付けるものだ。」と彼らは書いている。
反応時間を測定

研究チームは、能力(パフォーマンス)の測定も行った。一定時間毎に、パイロットは電卓ほどの大きさの測定器(ボタンと赤色のLED表示で000と数字が並んでいる)を渡されて。LED表示の数字が突然ゼロから増えはじめるので(時間をミリセカンドで表示)、それに気付いたらパイロットはボタンを押し、その時点でカウントが止まるので、反応時間がわかるような仕掛けになっている。この測定は、各回、10分間続けられた。
データが分析された結果、休憩なしグループでは、反応時間に確実な増加が見られた。休憩を取るグループについては、各フライト内を取っても、4回の乗務を通してみても、反応時間の有意の増加はなかった。特に夜間飛行に関しては、休憩なしのグループは、休憩グループより反応が相当に遅かった。
機上仮眠を取っても取らなくても、パイロットが自己の覚醒度の主管評価(つまり自分がどれくらい疲労していると感じるかの印象)は、変化がなかった。しかし、(測定に基づく)客観的な評価では、休憩ありのグループが明らかに、能力(パフォーマンス)の点でも、覚醒度の点でも優れていた。
操縦席での仮眠が「有効ではあるが長続きしない救済」であることは確かだが、パイロットの勤務パターン全体についての「深刻な睡眠負債」が仮眠によって解決される訳ではないことを研究者達は強調している。「深刻な睡眠負債を解消するには、一晩あるいは数日間の夜間睡眠が必要だ。」と。
FAAのスポークスマンによれば、FAAは、NASAの研究に基づいて、操縦室内で計画的な休憩を取ることの解禁を提案すべく、調査中だという。
以上乗員組合抄訳
次ページに、説明記事訳(同ワシントン・ポスト)