Day: June 20, 2002

電磁波干渉と航空機の運航電磁波干渉と航空機の運航

電磁波干渉と航空機の運航(電磁波干渉ってなに?) 1.電磁波干渉(Electro Magnetic Interference)とは 一般的な「電磁波干渉」というと、雷のような自然現象から、人間が製造した各種の電気電子機器が発生するノイズによって、他の電子機器に好ましくない障害が発生する事を指します。分かりやすい現象としては、雷による中波ラジオへの雑音、電気モーターによるTV受像の乱れなどの「意図しない電磁波」による障害や、違法無線によるFMラジオへの混信、電子制御装置の誤作動、などのような「意図的な電磁波」による障害があります。  これらすべてを、我々が包括的に理解する必要もありませんので、ここでは、最近の航空機の運航に障害となるもののみに、的を絞って考察したいと思います。 2.意図された電磁波?意図しない電磁波? 「意図された電磁波」とは直接的にはアマチュア無線機、携帯電話などがありますが、あまり知られていないものには、受信機(ラジオ)の内部で作られている「中間周波数」なるものもあります。これは「スーパーヘテロダイン」とか「局発」とか航空級無線通信士の試験でお目にかかった(事があるかもしれない??)理屈によるものですが、電子機器の設計段階から、わざわざ発生させているものですから、「意図的な電磁波」です。  これらの「意図された電磁波」は、発生する側の電子機器も、航空機側もほぼ対策を施しているので、ここではとりあげません。  「意図しない電磁波」がやっかいものです。これにもいくつかの種類があります。  ひとつには、「意図された電磁波」が副次的に発生させる電磁波です。これは「高調波」とか「ふく射(スプリアス)」とかいわれるもので、例えば50MHzのアマ無線機から100,150MHzといった、目的外の周波数の電磁波が発射されたり、FMラジオの中間周波数(10.7MHz)の倍数の電磁波が漏れたりするものがあります。 このような「目的外の電磁波ふく射」はある程度予測可能です。  他方では完全に「意図しない電磁波」として、大電流機器のON/OFFによるスパイクノイズや、話題のパソコン・CDプレイヤーなどの「マイクロエレクトロニクス機器」からの「電磁波」があり、これらが大きな問題となっています。 3.マイクロエレクトロニクス?? すぐにも陳腐化しそうな言葉ですが、他に適当な分類が確立していませんので、こう表現されています。  どんなものかというと、「小さくて、いろんな機能がついている、電気で作動するもの」と考えれば当たらずとも遠からず、と思ってください。パソコン、携帯電話、CDプレーヤー、電子ペット(ファービー)、ポケットゲーム機、、、、これらのものにはすべてマイクロエレクトロニクス≒「コンピューター」が組み込まれています。  「コンピューター」が作動するためには必ず「クロック」と呼ばれる数MHz以上の方形波(デジタルと考えてもよいでしょう)と、信号のやりとりとしての方形波、の2種類のパルスが発生します。 理科の教科書には、正弦交流波により発生する「電界」がよく描かれますが、「電磁波」は電流が変動する時に発生するものですから、これらの方形波の立ち上がりと立ち下がり時にも「電磁波」が発生するわけです。 つまりマイクロエレクトロニクス機器には、クロックに関わる周期的な「電磁波」と、信号(情報)による不規則な「電磁波」が必ず付随しているわけです。 4.不要電磁波のふく射と受信 参考で触れますが、航空機搭載機器からの不要電波のふく射については、論外というか対策済みのはずなのでここでは除外します。他には乗客による機内持ち込みの電子機器が問題となります。  機内持ち込みで、「意図された電磁波」を発射する装置は当然アンテナを備えています。「意図しない電磁波」をふく射する装置には通常「アンテナ」はありませんが、電気の流れるところはすべて発射アンテナになり得ます。この場合の電磁波は非常に弱いもので、[参考]に掲げる航空機の設計上問題となるような、強い電界強度の何万分の一(あるいは10-6乗)程度の測定すら困難な強さです。しかしながら、そのような微弱なパワーしか持ち得ないCDプレーヤーでさえEMIを発生させているのが現実です。 参照:IATA報告事例  では、これら不要電磁波を拾う機体側はどうでしょうか。後述するように、航空機は耐空性審査要領などによって、「外からの強い電波」には耐えられるように作られています。(機体が大きなシールド筐体ですから)しかしながら、その機体内部には、B747クラスでは数十km以上と言われるほど大量の電線が使用されており、基本的には、これらの全延長が受信アンテナとなりえます。但し、デジタル機器を結ぶARINC(エアリンク)と呼ばれる規格では、シールド線または、より安全性の高いツイステッドペア線(撚り線)を使用しています。教科書的に考えるならば、シールド線の真横にCDプレイヤーを持ってきても、何の障害も起こり得ない筈です。  しかしながら、機体内部には様々な金属があります。これもアンテナ代用品になりえます。例えば、ある座席とその座席の固定レールがちょうどその電磁波の共鳴(共振)関係になり、さらに壁の中のリブが伝導にちょうどいい距離関係にあるかもしれません。また、曲がりくねり撚りあわされた配線、種々のコネクターによるシールド不全など、複合条件は検証しきれないほどあります。これが、同じ装置を同じように使っても、ある座席では発生したのに、その隣ではもう発生せず、コックピット内でさえ再現しない原因と思われます。 5.なぜ障害となるのか 航空機においては、昔から知られている、雷や空電によるADF(中波自動方向探知機)の誤指示や、自らのHF(短波)送信時における油圧計の誤指示などがありますが、これらを仮に「アナログ系障害」としましょう。これらのアナログ系障害は、発生事象が割とダイナミック(はっきり分かる)で、因果関係も特定可能(再現性が高い)なケースが多いようです。  ところが、最近話題の、コンピューターの関係する機器への障害の場合、まったく逆で、想像できないような現象が、再現性に乏しく発生しています。これを「デジタル系障害」と呼んでおきましょう。  「アナログ系障害」は、予期されない電磁波が、本来の信号をオーバーライドしてしまったり、歪ませたりすることにより、誤作動を引き起こします。ところが、「デジタル系障害」は、「1」と「0」の組み合せである信号を書き換えてしまう事で、より重大な(あるいは極端な)誤作動となり得ます。  航空機のデジタル信号は、+の電圧(+5から+15V程度)の時に「1」と解釈し、0または負の電圧(-5から-15V程度)の時に「0」と判断されます。この「1」と「0」の組み合せで、それぞれの電子機器のIDから、データまですべてを判断しますから、ひとつ順番が入れ替わっただけでも大変な事が起こり得ます。  例えば、スラストレバーを動かして、N1を(ほぼアイドルの)33%にセットしようとした時、レバーを動かして、そのセンサーが「33」を出力するようにしたとします。センサーはオートスロットルコンピューターに対して「33」を意味する2進数「00100001」(仮に8ビットとします)を送るのですが、 これは10進法では「97」%です。 とするとエンジン制御コンピューター側では「97」%と受け取り、そのように大出力をセットするでしょう。(もちろん実際は、こんな単純な事は起こりません。概念の話です)     参考:ARINC規格、エラーチェック 6.公的機関による規制 航空機における規制としては、設計段階と運用段階があります。設計段階においては耐空性確保の為にいくつかのスペック(JIS,MIL,HIRFなど)があるようですが、電波暗室で航空機の機器を作動させて計測するなど、いずれもが「航空機自身に搭載の電子機器が、他の電子機器に影響を与えないか」の観点だけであり、「客室内に持ち込まれる電子機器がもたらす影響」については、何も触れられていません。      参考:安全水準