jca Jamaika  

PIOとは

米国の航空専門誌(Aviation Week and Space Technology) 1997,3,24より引用

  Fly-by-Wire機に関し、より多くの試験飛行を勧告

National Research Councilの最近の発表によれば、新しいFly-by-WireやFly-by-Light航空機では、Flight Controlに関する予想外の問題が発生している。

本来、不安定な飛行機に対して、安定性及び操縦性を与えるために開発されたFly-by-Wire等の新技術は、意図せざる方向への効果と予期せぬ問題を引き起こす可能性を、潜在的に持っている。

このような航空機の取り扱いに対する弊害を探し出すには、設計段階でのより慎重な検討や、より多くの試験飛行・Simulatorによる検証が必要となる。

最近起こった軍や民間のFly-by-wireの航空機が巻き込まれた事故・インシデントに鑑み、NASAはNational Research Council(NRC)に対して、飛行の安全にかかわるAircraft-Pilot Coupling(APC)の研究をするよう依頼した。

その目的は、Pilot・航空機・操縦装置間の力学的な相互作用が、不安定な飛行状態を引き起こす状況を研究する事である。

NRC委員会はAPC(Aircraft-Pilot Coupling)という言葉を次の二つの理由から採用した。つまり、“PIO(パイロットが引き起こす振動)”という言葉から連想される、非難めいた印象を払拭する事と、単に振動だけでなく、Pilotと航空機の間で起こる、意図せざる相互作用にまで適用範囲を広げるためである。

Fly-by-wireの航空機が出現する以前は、意図せざる航空機の振動は“ヘボパイロット”のオーバーコントロールによるものだと非難され、そこからPIOという言葉が使われるようになった。しかし最新のComputer化されたFlight Control Systemにおいては、パイロットは操縦系統の一部を占めるに過ぎなくなっているという事から、委員会ではPIOの定義を“Pilot-Involved Oscillation(パイロットが巻き込まれた振動)”と変更した。PIOには軽度で簡単に押さえる事の出来る動きから、激烈で危険性を伴う振動まである。

報告によれば、パイロットのせいにされる多くのAPCは、実際の所は設計の不適切さの結果といえる。このような意図せざる振動が発生した場合、パイロットの操作はその激しい振動を押さえる方向にではなく、むしろ拡大させる方向に陥らされる可能性がある。このPIOは、命の安全が保障された安全なSimulatorでは、検証されにくいものである。

Fly-by-wireの航空機では、パイロットの操作が、操舵面には直接つながっていない。操作信号は、作動装置に電気信号として伝えられるため、パイロットは舵面の動く早さや、舵面が限度一杯に動いたなどという感覚を感じ取る事はできない。そこからパイロットの考えと実際の機体の動きに不一致が生じ、APCへとつながるのである。

Fly-by-wire機の利点は、設計者が操縦装置を非常に精密なものへと発展させる事が出来る点である。航空機の性能や安全性を高める目的で、そのSystemは飛行状態や飛行様態に応じて操縦装置の応答性を変化させる事が出来る。

適正な設計がなされていれば、操縦様態の変更はスムーズでパイロットの意に添うものであり、その操作に何の障害ももたらさない。

報告によれば、新しいFly-by-wire機のほとんどすべてが、その開発過程においてAPCを経験している。APCは通常パイロットが精密に飛行機を操縦する必要のある、最も忙しい状態において発生している。しかもそれらはちょっとした出来事が、忙しい仕事やより正確な操縦を阻害した際に起こっている。

ある特有な出来事は、パイロットと機体との力学的な関連を変化させる。

これらの中にはパイロットの操舵力の変化や、操縦装置の切り替え、ちょっとした機械的故障、それに大気の激しい擾乱などが含まれる。

報告によれば、これらのきっかけになるものとしては、操縦装置の設定値の不適切さが一般的である。

最大の関心事は“cliff-like”と呼ばれる特性、つまり“劇的で致命的でさえあるAPCに突然陥ってしまう特性”について、どのような研究がなされているかという事であり、重要な点はその傾向をどのようにして発見し、修正するかである。

APCの問題は通常、新しいデザインや技術の導入に伴うものであるが、APCの傾向が検証されていない分野での飛行任務を与えられたときにも起こりうる。

ロッキードYF-22実験機が1992年4月25日、カリフォルニアのエドワード空軍基地で、滑走路上を低空飛行した時、墜落した事故は、約12メートル上空で4~5回機首を上下させた後、滑走路に接触したものであるが、パイロットは無事に脱出した。

調査の結果は機体の故障ではなく、一連の予想外の出来事によるとされた。

YF-22の推力の方向を制御する方式は、高高度で大きな機首上げ状態で飛行する時に、失速後の機首下げを速やかに行うためにある。

報告には、この操縦方式は低高度・低速度で推力の方向を変化させるようには設計されておらず、その検証もされていないと書かれている。

また、この試験飛行では推力方向の変更装置を切る事が要求されていたが、試験飛行チームはそれに従わなかった。

パイロットが推力方向の変更装置を働かせたままで車輪を上げた際、自動的に上下方向の応答性の変化が引き起こされ、そのために小さな操縦かんの動きで予期せぬ大きな機体反応を引き起こしてしまった。

1994年4月26日、名古屋空港において発生した中華航空のAirbus A300-600の事故は、パイロットが自動操縦と手動操縦との相互作用について良く理解していなかった事が原因とされた。

操縦士はflight directorとauto-throttleを使用してglide slopeを手動により飛行していた時、autopilotのswitchを誤ってgo-around modeに入れてしまった。

パイロットは、すぐにauto-throttleを切りautopilotを入れたが、この事が機体を進入復航する体制(go-around mode)に入れ、大きな機首上げ姿勢にしてしまった。パイロットは手動で機首を下げautopilotを切ろうとしたが、あまりにも機首が上がりすぎており、スピードが少なかったために失速し、271名の乗客乗員のうち7名以外は全て死亡するという事態となった。教育を改善する事によってこの種の問題を解決すべきである。

GripenにおけるJAS39便の事故は、操縦装置に対するパイロットの期待と設計が整合していなかったために起きた例である。

この事故は1993年のストックホルム水上祭りのデモフライトにおいて、観衆の目前で加速しようとパイロットが操縦かんを激しく切った時に起こった。

操縦操作により舵面は限界一杯に切られ、パイロットが意図した以上の機体の動きとなってしまった。そして彼が反対の舵をいっぱいに切ったとき、作動装置も姿勢の変化率も限界に達した。Roll PIOは舵面の動きの遅れが0.1秒~0.8秒に達したときに更に悪化した。パイロットは5.9秒後に脱出に成功した。

NRC委員会はAPCを避け・発見し・修正するために最も重要な手段は、予期せぬ誘発要因や相互作用を見つけだすために、シミュレーションと解析を行う事だと結論した。

APCの可能性を減らす事は出来るが、そのAPCの傾向は目につきにくいものであるために、過去においては事故が起こるまで気付かれずに来た。NRCは、設計時の基本的事項のひとつに「操縦装置はパイロットが期待する方法で、異なる作動モードに変更出来るものでなくてはならない」という事があると言っている。予期しないAPCを見つけだすためには、試験飛行をより多く行うという事に尽きる。

そしてその多くの試験飛行は単にスムーズな飛行のみでなく、大きな加速度を伴う標的追撃や空中給油・航空母艦への着艦といった激しい運動を伴う飛行において行なわなければならない。

APC(PIO)に関する考察

NASA: Ralph A’Harrah

・1988年から1997年の間に、民間航空では213件の全損事故が発生した。そのうちの49%にあたる105件の事故は、“乗員に主たる原因”があったとされている。さらに30%にあたる64件は“原因不明”とされた。つまりこの10年間の全損事故のうち80%近くは、正確な原因が特定できておらず、したがって改善すべき点が未解決のまま残された形となっている。

・現在の飛行記録装置の多くは、せいぜい毎秒1回のデータレートであるが、これでは全く不足であり機材の問題点が明らかに出来ない。実験によれば、毎秒20回、10回、4回、1回とデータレートが減少する毎に機材の問題点が覆い隠され、人的要因とみなされる傾向が明らかになった。

・パイロットによる操縦入力と実際の舵の動きとの間のTime-Delayは、APC(PIO)の主たる原因となる。

・最近の飛行機のTime-Delayはほぼ0.1~0.15秒であるが、このわずかな効きの遅れは姿勢の急変からのとっさの回復操作の際に、一時的な操縦不能の状況を引き起こす。

・APC(PIO)に陥ったパイロットは、それが乱気流又はオーバーコントロールによって引き起こされたと感じる。

・Time-Delayが0.2秒を超えると、パイロットは操縦系統が壊れたかのような印象を受ける。

・実際上この障害は、パイロットが操縦系統の性能を超えた操作を行った場合に生じる。

・このような大きな操作は、機体が地上や他の航空機との衝突回避を行う時に起りやすい。

・パイロットにとって“操縦装置が故障した”かのような印象は、油圧装置の故障や機能が低下した状態で、かなり大きな操作を行う必要がある際に、さらに悪化する。

・APCは最新型の機体にも数多く経験されている。これらの機種は過去の教訓を生かし、十分なシミュレーションテストや飛行テストを行って調整されたにもかかわらず発生しており、APCと認定されれば修正する事が可能であった。

・1988年12月に7名のFAAのテストパイロットと5名のFlight Test Engineerにより、APCの飛行試験が行われた。事前の学習とシミュレーター訓練の後に、操縦特性を変化させる事の出来る実機で飛行試験が行われたが、そのうち数回は危うく墜落する状況に陥った。危険な状況に陥った際には、セーフティーパイロットが操縦を交代し、操縦特性を正常な状態に切り替える事により危機から回復することができた。

・Time Delayは0.15秒以内であるべきで、0.2秒では潜在的に危険なものと言える。

・事故の統計において、APCの問題が解明されていないがために、事故原因の50%もの部分がパイロットエラーとされているし、同様に30%にのぼる“原因不明”とされた事故の中にもAPCに関連するものがあると考えられる。

・APCを見極めるためにはデータレートを早くすることが必要で、一旦APCと判定されれば解決法はある。一方、APCと判定できずにパイロットミスとされれば、真の原因は隠されたままとなってしまう。

Handling QualityTime Delay操縦性
Level 1 Level 2 Level 30.10sec
0.20sec
0.25sec
十分な操縦性能
操縦特性低下
パイロットは十分に対応できない

機長組合(注)

*ダグラス社の資料によれば、MD11のTime Delayは約0.2秒と言われ、操縦性能はLevel 2である。

*MD11型機は、旅客機として例の無い着陸時の事故を2回も起こしている。ニューアーク空港と香港空港の滑走路の上で、裏返しとなり大破した事故では、APCの関与が指摘されている。