JAL再生に関する日本航空機長組合提言

   

2010年02月22日

機長組合は、会社更生法の適用を新たなスタートと位置づけた上で、再生に大きく貢献すると考えられる課題についてまとめた「JAL再生に関する日本航空機長組合提言」を2月20日の臨時組合大会で決定し、管財人・新経営に提出致しました。


T.再生の原動力となる社員のモチベーション維持について

これまでのJALでは、経営の詳細が職場や組合に説明されず不透明であり、また、収益改善のために有効な施策が実施されることなく、人件費の切り下げによってこれを乗り切ろうとする経営の安易な姿勢があったことから、社員は不信感を蓄積させてきました。

今般の再生の過程では、企業再生支援機構や新経営の作る再生計画に労働条件の問題が含まれていることが考えられますが、このような経緯がある中で、社員がモチベーションを維持し、再建に向け一丸となるためには、真に有効な再建計画が社員に理解され、それを信頼して施策の実行に参加していくことが不可欠です。そのためには以下に留意して頂くよう提言します。

·       再生計画と同時に、JALが現状に至った原因の精緻な分析も併せて示すこと

·       再生へ向け社員が展望を持って結集できるような施策が盛り込まれること

·       その為には、施策について労働組合・社員に対し十分説明・協議を行うこと

·       また、適宜更生計画の進捗状況を公開(開示)し、労働組合・社員の理解を深めること

U.運航の安全に関する提言

      「安全運航を最優先とする文化」などの継承と発展を

私たちは、安全で高い品質の運航を日々提供しつづけることにより、日本航空の再建に寄与したいと考えています。

企業に厳しい自助努力が求められている状況ではあるものの、行き過ぎた効率化は取り返しのつかない安全上の大きな痛手を被ることになりかねません。

·       安全運航を最優先とする文化

·       勤務・休養など運航乗務員の安全上の制限

·       教育・訓練体系の充実を、航空会社の財産とする発想

·       整備品質を、経営・整備部門・運航乗務員が協力して向上させる体制

これらは、過去の歴史の貴重な教訓により社内で醸成されてきたもので、将来にわたり安全運航を維持していくためには何れも欠かせない観点です。またこれら以外にも、乗務前に乗員が十分な情報を得るためにShow Up Timeを見直すなど、現場が安全上切実な問題と感じている懸案事項について、新経営陣はきちんと向き合い対応していく必要があります。ICAOのSafety Management Manualには、企業の安全文化は経営トップに始まる組織管理者の言葉と行動により規定・育成され、安全に対する労働者の態度を形成することが記されています。

こうした点を十分踏まえながら経営にあたられるとともに、新経営陣においても受け継ぐべき経営方針は継承され、より発展させていくことを強く望むものです。

      自由闊達にものが言える職場づくりを

安全アドバイザリーグループは「守れ、安全の砦」の提言の中で「社員の活気や意欲、自由な創造性、自由にものを言える職場、業務のあり方や将来について議論する機会のある職場などは、すべて安全の基盤である」と指摘しています。

しかし残念ながらこれまで社内の一部では、現場の自由な発想に蓋をし、意欲を削いだり、異なる意見を封じ込めることにエネルギーを費やすような不健全な職場作りがなされてきたことを私たちは目にしてきました。

また私たち運航を担う職場においても、果たして自由闊達に意見を述べ合いその意見を尊重する風土が根付いていたか、謙虚に振り返る必要があると考えています。

上記提言に沿った組織運営が経営トップから社内末端に至るまで広く行き渡るよう努めていただくことを要望いたします。

      現場の意見に耳を傾け、その代表である組合との協議体の進化を

実運航において何かしらの不都合や安全上の様々な問題を認識しているのは現場であり、乗員の組合はその声を集約している技術者集団です。

Safety Management Manualにおいても、組合も参画したSafety Management Systemの構築が推奨されています。

近年、LOSAや運航安全Working Groupなど組合との協議が図られる場が持たれつつありますが、これを事故・インシデント・様々なリスクイベント等に関する情報交換やその分析、対策も含めたより体系的、包括的な協議体に進化させることにより、現場と会社組織との情報共有が図られ、改善の実効性も高まるものと考えます。

      安全文化の醸成に向け「ヒューマンエラーを非懲罰とする」ことの徹底を

安全運航の確立に向けては、不具合や不安全な出来事を自ら積極的に報告し、その失敗から学び取り、改革を成し遂げる必要があります。

意図的あるいは怠惰に基づいた不安全な行為が許されないことは当然ながら、人間であるが故に避けられないエラーについては咎めず、報告を勧奨して社内に広く浸透させることで安全文化が醸成できると考えます。

その醸成に向けJALの安全管理規程に「ヒューマンエラーへの非懲罰」方針が掲げられたことは私たちも高く評価するものですが、実態としては現場の理解が得られにくいようなエラーの当事者への対応がなされた事例も散見されます。これは状況からして社外からの何らかの影響と十分窺わせるものですが、この事態を放置していては安全文化は崩壊しかねません。

失敗から学びとる積極的な安全文化の醸成を図りつつ、かつ社会からも仲間内で庇っていない「公正」な対応をしていると信頼されるには何をすべきか、経営と組合とで一致して取り組めるものと考えています。

V.勤務に関する提言

      科学的知見に基づいた勤務基準の策定と協定化

勤務基準は、疲労の蓄積・深夜時間帯の能力低下・時差などの影響を考慮した制限とすることが、運航の安全と疾病による乗務中断者数を減少させるために必要です。航空機の運航と疲労に関する科学的研究はすでに行われており、科学的知見が存在しています。これら科学的知見に基づいた勤務基準とすることはICAOの方向性とも一致するもので、早急に策定されるべきです。

また、その基準を全ての組合と協定化することにより、全ての乗員の勤務を律することになるとともに、イレギュラー発生時において、自らの疲労の影響を判断することが困難な当該乗員に、運航が継続できるかあるいは中断になるかの判断をゆだねる機会を極小化し、もって運航の安全の維持のみならず、組織としてその判断を早い段階で行えることになります。このことが、旅客・荷主の方々に与える影響を最小限とすることも理解する必要があります。

W.乗員計画に関する提言

      短距離路線中心機種における副操縦士昇格訓練への一本化

これまでは、殆ど全ての機種で副操縦士昇格訓練が行われてきました。既に運航安全Working Groupの答申として『副操縦士として豊富に離着陸経験を得られる中小型機に最初にチェックアウトした後、順次大型機に移行できるような乗務・教育体制を構築すること』という結論を得ていますが、短距離路線を中心に運航する機種が副操縦士昇格訓練に適している理由を以下に述べます。

·       操縦士に求められる知識・技量の取得に必要なWork Loadの高い離着陸のフェーズを短期間に集中して経験することができる

·       小型機の就航する路線には運航環境が厳しいところが多く、訓練効果が高い

·       若い時期に離着陸経験を積み重ね乗員としての技量を高めることは、会社にとっても大きな財産となる。そこで得られた自信は、将来の機長昇格訓練における負担軽減にもつながる

また、副次的な結果として、

·       訓練期間の短縮・ローカル訓練機材の小型化などによる費用削減

等も期待できます。

      副操縦士昇格後のプロモーション(中・大型機への機種移行)体系の確立

現在の移行訓練は、機材・路便計画による必要数と至近の機長養成枠(可能数)によって運航本部が計画するため、副操縦士の離着陸経験数や、路線環境、処遇などに差が発生しています。

副操縦士が高いモチベーションで安全運航の確立に寄与するためには、すべての乗員に公平で平等な希望機種への乗務機会が与えられるように、プロモーション体系を確立し、乗員としてのライフサイクルを明示することが必要です。

      グループ全体としての乗員計画策定

効率的な乗員養成を行うには、JALグループ内の全体を見通した計画が必要です。

一例をあげると、B737は原則としてJEXで運航するという方針がありながら、100人以上の機長出向者や既成乗員に頼って運航され、結果としてJALグループ全体の機長養成の場としては活用されてきませんでした。こうした状況を改めるためにも、グループ全体の乗員計画、機材計画を見据えた乗員養成、特に機長養成を見直すことが緊急の課題です。

X.IT・システムに関する提言

JAL再生に向けては、ITへの投資・推進は、安全の向上・企業運営の効率化・顧客サービスの向上などに大きく関わる鍵となります。

しかし、IT関連インフラ、情報管理に関わるJALの現状は社会の流れに大きく後れを取っている状況といえます。これまで、IT関連インフラは、安全向上にも大きく寄与し、企業運営の効率化にもつながるとの認識はあったものの数年来の度重なるコスト削減施策の中で必要な投資は後回しとなり中途半端な状況に放置されている、あるいは手がつけられないまま放置されています。具体的な指摘を一部あげれば

·       職場の劣悪なネット環境・古いコンピューター、細い回線、低いネットリテラシー、等

·       乗員の職場は、デスクを持たない中で実質的にE-MAILやネットコミュニケーションが有効であるにも関わらず、社員用メールアドレス付与すらできていない状況

·       その中で、個人PCおよび個人契約メールアドレスによる情報セキュリティー上、極めて危険な会社情報のやりとり、等

このような状況の中、情報セキュリティーに関するポリシーを明確に運用することすら出来ず、社員への情報管理の徹底は形式的であり、企業危機管理の立場からみて大きな不安が内在しています。

また、JALのITシステムはJALFOS等を含めて極めて古いOS・プログラムに改修を重ねてきたものです。こうしたシステムは、いつしか限界を迎え日常運航に深刻な影響を与えることは明らかであり、すでに効率が落ち始めていることが予想されます。

そこで今後、JALFOS・JOINET等古いシステムについては同業他社の情報なども分析しつつ、今後を見据えた新システムを構築すべきと考えます。また顧客獲得に向けたIT戦略(予約の利便性、ホームページの運営など)について改めてお客様目線から同業他社等も調査・検証し、そのうえで必要なところにはしっかりと投資することが重要です。

その他、組合に寄せられる現場の声には、効率化や利便性向上につながる有効なIT施策が豊富にあることから、それらの有効性を検討する必要があります。

Y.労使関係に関する提言

これまでにJALでは、経営の施策を分裂・差別などの手法により第二組合と先行合意し、他の組合との真摯な協議や合意形成への努力をせず、施策を実行してきた経緯があります。しかし、JALが会社更生法の適用を受け、再建していくために社員が一丸となることが必要な状況において、こうしたやり方を続けることは許されません。

全社員・全労働組合は、JALの真の再建を希求しており、新経営は今後の再建計画や経営計画を開示し、経営の透明性を高め、社員や労働組合の賛同が得られる労務政策を行って頂きたいと考えます。

以 上


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