「人件費施策について」

   
 

機長組合の経営問題の顧問をお願いしている神奈川大学関口准教授から、
今回の5%賃金カットに関して以下のコメントが寄せられましたので紹介します。

論 理 の す り 替 え 

 

 

神奈川大学経営学部准教授   関口 博正

 
JALグループは2期連続の連結当期純損失(前々期472億円、前期162億円)から一転して169億円の当期純利益を平成20年3月決算に計上した。平成21年3月期第一四半期も引き続き好調な業績を続けており(連結営業利益39億円)、2008年5月9日に発表された連結業績見通しでも営業利益500億円、経常利益300億円、当期純利益130億円の計上が予定されている。また、3年間で3回実施された増資 によって財務面での安定性も向上 したことから、最悪期は脱したと考えてよい。
このような業績好転にも関わらず、中期再生計画(2008年2月29日公表)では各年度500億円の連結人件費削減施策を継続することに加え、08年度50億円、09年度以降100億円の賃金制度改定による追加人件費施策が予定されている。
果たしてこのような更なる人件費削減が真に必要なものなのだろうか。
「今年二月の再生中期プランにつきましては、これは私どもも厳しく注文を付けました。その結果、例えば人件費について五百億円の削減、主としてボーナスのカット、あるいはリストラ、人員削減等々でございますが、こうした努力をしてもらい、一定の評価をいたしております。ただ、これで十分だということではございません。この計画を着実に実施すれば想定以上の成果は得られると思っておりますが、更なる自己改革、自助努力、こういったものについて経営の効率化を私どもは求めてまいりたいと、その基本的な態度は変わっておりません」という平成19年6月5日の参議院財政金融委員会における日本政策投資銀行総裁小村武参考人の答弁 からも、金融機関が更なる経営効率化推進を強く求めていたことがわかる。
また、昨年、主力金融機関がJALの債務者区分を破綻懸念先債権へ変更したこと によって新たな銀行借入が難しくなっており、平成20年3月の段階で資金調達手段は増資に限定されていたと推測される。そして、第三者割当増資引受の条件として、引受先から更なる経営効率化が求められたことも十分に推測しうることである。
 
では、外部からの要請に応えるような経営効率化は何によって達成されるべきなのだろうか。
平成20年3月期の増資によって得られた資金は平成21年度から23年度に計画される航空機関連投資に1,015億円、国内線ITシステム強化などに500億円が充当されることになっており、燃費効率の良い新機材への更新を進め、燃油費の削減と座席利用率向上を図るという。
そうであれば、調達された資金を投資することによって得られる具体的な成果は「燃油費の削減と座席利用率向上」であり、それによって生み出されるはずの利益こそが有利子負債削減や配当 の原資になることが本来である。すなわち、好決算のもとでの人件費削減提案は投資効果を無視し、経営効率化の矛先を短絡的に人的資源に向けたものであると言って良い。経営陣は人件費削減と人的生産性の向上という、社員の生活や雇用面での不安と引き換えに、安易にJALの財務安定性を手に入れたのではないだろうか。
 もし、増資による資金確保によって行われる投資行動から十分なリターンが得られないのだとするならば、そのような資金調達を目論んだ経営陣の資質こそが問われるべきであり、有利子負債返済原資や配当原資を従業員給与の削減に求めることは誤った論理のすり替えというべきである。
 
 

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