人件費施策について

   
 

100億円の賃金切下げ案への機長組合見解

航空経営者としての責任を放棄し、安易に社員の犠牲(人件費のさらなるカット)で利益を上げようとしている現在の経営方針の抜本的見直しを求め、

日本航空の全ての職場に働く全社員が、真の日航再建に向け立ち上がろう!

 

日航経営は2008年5月12日、社内全組合に対して表記の提案を社長名で行なった。

機長組合は、本提案の内容を検討し、また5月27日の経営協議会、29日の団体交渉の質疑を踏まえた結果、現状は日本航空にとって極めて憂慮すべき事態であると認識している。以下に詳細を述べるが、日航経営は航空経営者として踏み込んではならない領域に足を踏み入れた。この事は重大であり、放置すれば日航グループの将来と、5万人にも及ぶ日航グループ全社員の将来に重大な影響を及ぼす。

機長組合は、以下に本件の背景にある状況、今回の提案で明らかになった経営の重大な過ち・問題点を示す。そしてその上で、経営が現場の社員に期待すべき点と経営が直ちに立ち戻らなければならない正道を示し、併せて当面の必要な施策について提起し、全社員にともに行動することを呼びかける。

 

1.本件提案の背景にある状況

  • 日本航空グループは07年度連結決算において、予算も、中間決算時の見通しも大幅に上回る、900億円の営業利益、698億円の経常利益、169億円の当期利益を上げた。しかもこの決算は、当初予定していなかった特別損失(独禁法関連引当金172億円、臨時償却費71億円)を計上しながら達成されたものである。この好決算は、社長が繰り返し発言するように、社員の懸命なる努力の賜物である。今回の提案は、経営が社員の懸命な努力を、さらなる賃金カットで踏みにじることに他ならない。
     
  • 一方で、この決算は、社員の大きな犠牲によって達成されたものである。06・07年度には基本賃金のカットが強行され、一時金も経営が認めた「生活に最低必要な水準」を大きく下回る状況が続いている。さらには08年4月からは退職金も大きく切り下げられ、07年度では総計410億円の人件費切り下げが行なわれた。
     
  •   こうした切り下げの過程で経営企画室(BAZ)は、悪質極まりない虚偽の宣伝も行なった。3月14日付BAZ発文書は「第3四半期までの営業利益は825億円だが、第4四半期に燃油費が前年対比230億円も悪化することなどにより、1月〜3月の営業赤字が345億円にもなるため、年間営業利益は480億円程度に止まる」と述べ、いたずらに社員の不安感を煽り、経営の提案を受け入れることを求めた。しかし結局第4四半期は75億円の営業利益を上げ、通年900億円の利益を達成している。燃油費を例に挙げれば、当該文書の配布時点でも、すでに1月〜2月の前年度対比燃油費は24億円増にしか過ぎないことが判明しており、BAZ文書は「月間300億円程度の燃油費が、3月単月だけで、前年比206億円上昇する」と宣伝したことに他ならない。悪辣かつ意図的な「嘘の宣伝」である。
 

2.今回の提案で明らかになった経営の重大な過ちと問題点

今回の提案で重要なのは、4月28日付でBAZが職場に配布した文書に示されたその主旨であり、主な論理展開は以下のとおりである。

  日本航空の財務体質は脆弱であり、機材更新を含めた事業資金が必要

自己資本強化のためには優先株での増資が必要で、優先株であれば恒常的配当が不可欠

燃油費・景気動向も不透明で本業での利益は当てに出来ず、人件費切り下げ以外ない

   この論理展開により導かれた今回の提案には、以下のように重大な過ちがある。

  • 職場に虚偽の宣伝を行なったBAZは、最早、職場の信頼を完全に失っている。半月で400億円以上も見通し利益が変動すれば、それは当然である。そのBAZが如何に論理を展開し施策の必要性を強調しようと、職場は一切信用しない。経営者が職場に信頼されていない状況では、経営施策の実行は不可能である。
     
  • 社長が約束した「計画以上あげた利益を社員に還元する」は、07年度分として40億円程度が提案されている。しかし、その額に合意が整わないうちから、還元の水準を大きく上回る「100億円(08年度は50億円)の賃金カット」を提案することは、欺瞞に他ならない。社員が「努力しても報われない」と感じれば、それはモチベーション低下に結びつく 。
     
  •   「景気動向も不透明で本業での利益は当てに出来ない」との主張は、経営の責任を放棄している。機長組合は従来から路便構成や機材更新計画の見直しを主張しており、BAZにはこれらを詳細に検討し、必要な見直しを行い、中期期間中に最大限の利益効率を追及する姿勢が全く見えない。
     
  •  経営施策と現場のモチベーションとの関係についての認識が完全に欠如している。BAZが一方で「本業での利益は当てに出来ないから人件費の切り下げで」と主張しながら、社員はそれでも頑張って利益を上げようとするだろう、と考えるのであれば、とんでもない過ちである。現場で働いているのは生身の人間である。そのような安易な発想が出来るとすれば、経営者としての資格は全くない。経営の施策の抜本的な見直しを検討せず、安易に人件費を切り下げ、100億円を捻出してこと足れりとする経営の発想を強引に推し進めても、燃油費がさらに高騰する事態となれば、会社の収益も、社員の福祉も、モチベーションも一挙に失われることになる。
     
  • 社員のモチベーションアップによる収益増大を根幹に据えない限り、日本航空に将来はない。現在の航空界の状況を見ると、モチベーションの喪失は他社への大規模な社員流出に直結する恐れがあり、周知の通り既に乗員・地上職の有能な人材流出が始まっている。今後この状況が加速すれば、日本航空の屋台骨を揺るがす事態になりかねない。
       
  • 2005年の安全上の問題の多発と、事業改善命令を受け、社外アドバイザリーグループは安全対策として「経営と現場との風通しの改善」を提言した。今回の提案はこの提言に逆行するものである。現在の経営陣は、当時の旧経営陣が現場の声を聞かずに施策を一方的に推し進めることに反発した社員の支持で成立したはずであり、その原点が忘れられれば、日本航空再建に向けての社員の結集は困難になるだろう 。
     
  • 今回の提案の骨子は中期再生プランに総額として記述されていたものの、その後、各現場役員が、本件に関する現場の社員の声を一切聞いたことはない。現場の役員が現場の声を知らない限り、現場の代表として役員会にその声を反映する方法はない。従って今回の提案は、BAZと労務の独断で作成され、経営トップの了承を得たと言うことが出来る。経営トップの責任は重大であることに加え、これほど問題点がある提案が、BAZと労務の独断で企画され得る、という経営機能の見直しも必要である。
     
  • 今回すでに経営協議会を実施したJALFIOも、中期計画の提示以来、一切論議なしに3カ月が経過し、今回100億円の具体策が提案されたことに不快感を示し、にわかに提案に同意できないことを表明したとのことであるが、当然であろう。職場の声に沿った活動を行うことが労働組合の責任であり、今後JALFIOを含めた日航内全ての組合が全社員の信頼を得る、真摯な取り組みをするべきである。
 

3.航空企業の収益性確保には、社員のモチベーションが不可欠

会社組織が、努力により時に高い成果を生み出す「人間」により構成されていることを忘れ果て、そろばん勘定だけで収支帳尻を合わせようとするBAZに経営戦略を委ねることは出来ない。最後に企業の収益性を上げるのは現場のモチベーションの力であることが忘れられてはならない。

  •  現場のモチベーション低下が、日本航空の収支にも大きな影響を与えるのは、火を見るより明らかである。社員に「自分や仲間の頑張りが自らの生活の向上につながるという意識」を持たせ得ない経営者が、丁寧かつ細心な運航、乗客の信頼を損なう引き返しや大幅遅延を防ぐ繊細な整備、乗客の満足度を上げ日本航空のリピーターになって頂くような心のこもったサービス、日本航空の乗客を一人でも増やそうという熱心な営業活動等を期待するのは虫がいいと言わざるを得ない。
     
  •  運航乗務員に関して言えば、安全上の観点ばかりではない。年間100億円の賃金カットのうち、運航乗務員分は34億円と説明されているが、このレベルの費用節減は、運航乗務員がモチベーションを持って乗務すれば十分可能である。現在、燃油費の総額は3800億円程度であり、34億円はその1%弱にあたる。特定便の消費燃料を10万ポンドとすれば1%弱は約1000ポンドであり、全ての運航乗務員はこの程度の消費燃料を節減するノウハウを十分持っている。しかし、実際に節減するためには通常の乗務より高い緊張度を保ち、運航環境に対してより深い洞察を行い、操縦に当たってもより繊細な対応が求められる。言い方を変えれば、安全運航を確保する以上の努力が求められる。そこを支えるのがモチベーションであり、経営への信頼感である。

 

 

4.経営は、労使関係の安定に向け果たしてきた機長組合の役割を忘れてはならない

最後に、経営が決して忘れてならないことは、労使関係の安定に向け機長組合が果たしてきた役割である。機長組合は設立宣言の主旨、すなわち「日航再建に向け絶対安全の確立とその基盤たる労使関係の安定・融和に向け、運航の最終責任者として全社員の先頭に立つ」に則り、最近でも以下の役割を果たしてきた。こうした経緯を忘れ、仮に経営が、機長組合の提言を無視して誤った方針による一方的な強行姿勢を続けても、なお、機長組合の協力を期待するならば、それは大きな間違いである。経営が機長組合の協力を一切得られなければ、真の日航再建は望むべくもない。

  • 勤務問題/通勤問題/長時間乗務手当問題の解決  
  • 「運航安全ワーキンググループ」の立ち上げと再発防止対策の提言
  • 厚生年金基金の代行返上
  • LOSA、J-OPS、横風制限値などの安全問題
  • 36協定の締結
 
5.機長組合は経営トップに下記の方針の決断を求める

機長組合は、真の日本航空の再建に向け、経営のトップが早急に下記の施策を方針として決断することを求める。

  •   経営トップは現場に理解されない施策を提案した責任を痛感し、その姿勢を抜本的に改めること。
     
  •  経営方針と労務方針の決定プロセスを改善し、BAZと労務部(ILZ)の2部門が独走的に先行企画する体制を改め、原案策定の段階から経営のトップと関係現場役員が深く関与する体制とすること。
     
  •  経営企画部門と労務部門の人心を一新し、経営トップを中心とした新たな体制の中で早急に「優先株に人件費削減で配当する」方針を見直して代替案を協議すること。
     
  •  経営と社員の信頼関係が失われている現状を打開するため、労務が理由もなく設定してきた既存の労使交渉の枠を超え、経営トップが全労働組合と直接、今後の施策について真摯に交渉する場を設定すること。
 
6.経営が緊急に実施すべき具体的施策

経営は、07年度の予算を超えた利益(170−70=100億円)を、内部留保だと説明している。また08年度4月のJALI決算が発表されたが、営業損益は予算を80億円上回る状況である。機長組合は経営トップにこの状況を踏まえて、以下の具体的な施策を実施することを求める。

  • グループで留保している100億円を配当資金として留保しつつ、労使協議が整わない間は、5%(年間100億円)の賃金カットを強行しないこと 。
     
  • 4月の決算状況を、08年10月から賃金カット(下期分は50億円)を強行しなくとも労使協議を実施できる好機と捉え、早急にトップ交渉の場を設定すること。
     
  •    交渉の中では、08年度収支の流れも見ながら、具体的な施策を労使の慎重な協議で決めて行くこと。
      
  •  08‐10年度中期計画における、人件費関連施策全般への経営の基本的なスタンスは「社員からの借金として、いずれ返還する」ことを明言し、社長の「各年度目標達成時の還元策」、「中期計画目標達成時の還元策」、「基本賃金カットの還元策」も具体的に明示すること。
 

7.機長組合の今後の取り組み

機長組合は、この見解に示した現在の経営施策の問題点を広め、必要な経営施策の見直しを強く迫るために、以下に例示する取り組みを早急、かつ具体的に企画して、実行に移していく。

    JJ労組連絡会議に結集する組合の早急な意見集約活動

    JALFIO組合員も含めた全ての社員を対象に、見解の配布を含めた教宣活動

    全社的な署名活動

    利用者・国民・株主・マスコミなどを幅広く対象とした社会的な運動、等々

こうした取り組みにも関わらず、経営の反省がなく、施策を一方的に強行する場合、機長組合は、JJ労組との連携の下、裁判闘争も含めた第三者機関への提訴や、争議権の取り組みを進める体制の構築も検討せざるを得ない。

 

機長組合は、各組合員、地上・客室管理職、一級職運航乗務員を問わず、日本航空の全ての職場に働く全社員が、現在の経営方針の抜本的な見直しを求め、真の日航再建に向け立ち上がることを求めます!

2008年5月30日

日本航空機長組合

 

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