jca Jamaika  

日本航空機長組合 – Japan Airlines Captain Association

今、乗員の行動に注目が・・・・・

皆で気持ちを新たに真のコンプライアンスを誓おう

真の‘JAL’再生への提言シリーズ-緊急特集
乗員としてのコンプライアンスを考える

2007年4月1日

ここ数ヶ月の間に一部の機長の社会生活上の法違反を問われる行為やフライト中の不注意や軽率な行為がマスコミに大きく報道され、社会から大きな批判を浴びています。私たちは、これまでコンプライアンスについて真剣に考え、経営に対して“社会の要請に応えるコンプライアンス”を主張していますが、こうした行為は、個人責任に帰する行動ではあるものの、“社会が「人命を預かる機長・乗員」に対して求める像に反している(意外と思われる方も居るかもしれませんが、こうした部分も“コンプライアンス”と呼びます)と言え、社会がJAL乗員全体を批判することをもって、会社や仲間であるJAL乗員・JAL社員にも大きな影響を与えるものです。

一方で、私たち仲間同士で当事者を非難することや、「私はこうした事件とは関係ない」と切り捨てることは、問題の解決にはなりません。反コンプライアンス事例の中には、意識しないうちに当事者になったり、大丈夫と思ってとった行動がとんでもない事件になるケースもあります。今、私たちは、反コンプライアンス的行動・事件の再発防止のために、仲間全体で真剣に考える必要があると言えます。

今、“社会が私たち乗員に求めているコンプライアンス”は何か考えると
私たちJALの乗員に限らず、広く社会を見回したときに個人の取った行動が「反コンプライアンス」として扱われ、個人の所属する組織名(会社・官庁など)とともにセンセーショナルにマスコミに取り上げられるケースの最たるものは、法律・規則に反した事件(交通事故・飲酒or酒気帯び運転・万引きなども含め窃盗事件・詐欺罪・痴漢行為・税金の申告洩れや虚偽申告・傷害事件など)でしょう。こうした事件からは遠くに身を置く慎重な行動が必要です。
 一方でこうした事件の中には、あらぬ疑いを掛けられ冤罪事件となるケースも多々あります。巻き込まれないように十分な注意する(満員電車など)とともに、巻き込まれた場合には毅然とした対応と弁護士の立ち会いを求めるなどの処置が必要です。

さらに乗員の場合には、航空機の運航にあたる以上、航空法やその下部規程であるOMなどの規程を適正に守ることが求められています。国内外の他社も含めてこれまでの事例としては(免許証/証明書の不携帯やその維持管理・飲酒や薬品使用・セキュリティーに関する規程違反など)が取り上げられました。これまで同様、私たちはこれらの規程を厳格に守っていくことも重要です。
 特に9.11テロ事件以降の情勢変化の中で、セキュリティーに関わる規程は大きく変っており、また今後も情勢によりさらに改訂されることが予想されるので注意が必要です。
 また資格の管理などは、過去、データのインプットミスなどによって会社の管理システムがチェック機能を果たさなかったケースもありました。乗員の自己管理も重要ですが、それは最後の砦として捉え、組合は、管理システムをもっと改良することなど、会社自身のリスク管理向上を求めて行きます。

こうした「社会の中での事件」「航空業務行なう上での過誤」に加えて、昨今では就業規則や社内規程に反した行為までもが、「航空会社の社員がこんなことをやった」とマスコミに大きく取り上げられることもあります。(貸与品の不正売買や流失・社内情報の流失漏洩など)。こうした社内の問題は本来、社内で解決すべき問題ですが、情報セキュリティーに関する事例など、現代社会の注目するところとなると、大きな問題として扱われるのが昨今の情勢です。
 これに対する会社の対応もまったく不十分で、貸与品について個数制限したり返却を求めるなどまるで子供扱いしたり、「すべてが会社情報。持ち出すな。セキュリティー対策は自分で徹底しろ」と自らの責任回避のアピールだけでしかなく、業務遂行に支障が出るほど職場を締めつけています。守れないルールを作ればそこにまた違反が生まれるという悪循環にもなりかねません。
 ただこうした問題は、ネット環境や情報管理の厳格化など以前にはなかった背景でおこっており、“今まで大丈夫”だったことが“大問題”になることもあります(以前、テンキー番号などをメモしていても何ら問題はありませんでした)。組合のニュース等に目を通し、今職場で何が問題となっているのかを把握するなど広くアンテナを広げて行動することが重要でしょう。

襟を正しつつ、マスコミ・週刊誌などの行き過ぎた報道には反論します
機長組合は、皆さんとともに上記のような反「コンプライアンス」事例・行動の再発防止に努めていきたいと考えます。その上で、昨今のJALのパイロット・客室乗務員を、プライバシーをも売り物とする芸能人などと同じ扱いをするマスコミ・週刊誌には、毅然とした態度をとって行く考えです。
 個人生活の中で(酔った上でのトラブル/異性関係でのトラブル/家庭内トラブルなど)そこに違法や反則にあたる行為が無くても、“JALのパイロットとしてあってはならないこと”と表現するだけで一私人をネタするのは、明らかに行き過ぎた姿勢であり、プライバシーの侵害です。
 組合は、これを侵害するような報道や会社からマスコミへの情報提供に対しては、これまでも毅然と対応してきました。しかしこうした記事などは世間に出た時点ですでに目的を達成してしまいます。常日頃から社会全体でマスコミの姿勢を正すことが大変重要です。

職場の萎縮は安全阻害要因
私たちが改めて“社会の要請コンプライアンス”に基づいた行動に立ち戻ることは重要です。しかし一方で、日常の行動や情報管理、人間関係に過敏になることは職場の萎縮を招き、安全運航をも阻害しかねません。私たちは本来、航空法や様々なマニュアルに基づいて航空機を運航することを訓練されてきたプロであり、職業的にはコンプライアンスの意識が極めて高い集団です。特別な場合を除いては、これまでどおりの平常心で運航乗務員・客室乗務員としての誇りをもって、冷静に行動することで十分に事足りるはずです。

最後に 眼をもち 耳をもとう そして何かあったら組合に
 現代のような情報化社会では、情報の判断・処理が大変難しくなっています。機長の中には職制の立場にある方もいますが、組織構成員に前述したような行為やトラブルが発生する可能性もあります。そのような場合に「私の胸にしまっておく」「これでケースクローズ」といった判断は極めて慎重にすべきです。自分では思いもよらないところで社会の目に止まるところとなった場合、会社としても対応が遅れることとなり、その管理責任を問われることにもなりかねません。
 また会社は当事者に対し、「組合に話す前に組織に報告するように」とこれまでも圧力を掛けたりしたケースもあります。しかし今こうした事態に的確に対処するには、組織が先、組合が先と言っている場合ではなく、組織は組織、組合は組合の立場で、当事者のプライバシー保護や適正でない処分などに全力で取り組む必要があります。その為にも、組合員はいち早く組合へ相談することが求められます。

 乗員の反コンプライアンス行為としてとらえられたケースの中には「昔は多くの人がやっていた」というものもありました。また「機長がいいと言っているのだから」と裁量の範囲で許されたこともありました。しかし社会が変化する中で法律や規則の適用、社会の許容する一線も大きくシフトしています。“昔許されたことが、今は許されない”そうした変化に敏感にならないと、いつのまにか反コンプライアンスに近づいていきます。

反コンプライアンスに近寄らない、そのために何を心掛けたらよいのでしょうか? それは眼をもち、耳をもつことです。会社業務に関わるだけでなく、社会に様々に関わりを持つことで、多くの人の意見を聞き、相談することが出来ます。その中で「それはまずいよ」「それはいいんじゃない」とおよそ正しい方向性の中で生きていくことが可能となるはずです。

中でも組合には多くの情報が集まるとともに、様々なトラブルを解決してきた経験を持ち合わせています。そしてすぐに相談できる顧問弁護士も紹介することが可能です。
何かあったら迷わず速やかに組合に相談してください。

企画・編集者後記:なぜJALが叩かれるのかを理解するヒント

マスコミ報道がバッシングへと切り替わる「臨界点」
 

郷原教授: 通常はマスメディアにとって大企業の不祥事報道にはかなりのリスクがある。見方を変えれば大企業には、マスコミ報道によるバッシングへの何重ものディフェンスが存在しているのである。
 第一に「真実性」「名誉・プライバシーの保護」という面で問題のある報道を行った場合、損害賠償請求等の民事上の法的措置をとることが考えられる。また、大企業グループをバックにしている企業を批判する報道によって反感を持たれた場合には、誤報や名誉棄損にいたらなくても、広告掲載を取り下げられるだけでも経営には大きな影響を及ぼす。
その為、マスメディアとしては一般的にはこのような大企業に対する批判に際して慎重にならざるを得ない。しかしそれが一方で、ジャーナリズム側が大企業の批判報道に関する潜在的なパワーを蓄積することにもつながる可能性がある。
もっとも安全に企業批判を行えるのは、企業不祥事が当局によって認定され、公表された場合である。新聞・テレビの記者には記者クラブ制度を通じて正確な情報が提供されるので「真実性」「名誉・プライバシーの保護」の面で問題にされるおそれはほとんどない。しかし、それが一過性の問題だった場合、特定のマスメディアだけが突出して強い批判を行うと企業側からの反発を招き、その企業グループからの広告料収入を失うおそれもある。そのため、批判報道にも一定の抑制が働くことになる。
 その状況が激変するのが、当局が摘発した違法行為の悪質性や反復性などによって当該企業に対する批判・非難が高まり「臨界点」を超えた場合である。企業側からの反撃が殆ど考えられない状態になると、マスコミ側に蓄積されていた大企業批判の潜在的なパワーが一気に噴出し、当該企業は多くのマスコミからの非難の連打を浴びることになる。
「コンプライアンス革命 コンプライアンス=法令遵守が招いた企業の危機」
(郷原信郎著 文芸社)
 
マスコミのJALに対する姿勢は、一連の安全トラブルの際、当局のお墨付きをもらった時点で臨界点を超え、それが持続していると言えよう。加えて労務政策の手法として乗員バッシング、組合バッシングを経営が攻撃に利用してきたことも事態を悪くしている。しかし、今はマスコミバッシングによって企業そのものが亡くなる時代だ。経営には、郷原先生が提唱する“コンプライアンスとしての広報戦略”を勉強するとともに、組合の要求に応えて、安全を確立することが何よりも求められるのだ。

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