事故調査委員会にJL706事故再調査を要請

   
 
再調査要請書
 

平成19年10月3日

鉄道・航空事故調査委員会
委員長 殿

再 調 査 要 請 書

航空安全推進連絡会議
日本乗員組合連絡会議
航空労組連絡会
日本航空機長組合

航空業務に従事するもので組織する三団体は,貴委員会に対し,1999年12月17日、貴委員会から公表された「日本航空株式会社所属ダグラス式MD-11型JA8580三重県志摩半島上空平成9年6月8日」事故にかかる事故調査報告書に関し、以下のように明らかな誤りがあり、しかも,当該事故を審理した裁判所からもその誤りが指摘されていることをふまえ、ここに再調査を要請する。

 事故調査報告書の記述を否定する新たな事実
1. 事故調査報告書P24
  ここで『オーバーライド』とは、自動操縦装置がエンゲージされている時に、操縦士が操縦桿に力を加えることを意味しており、以下、本報告書で使用する『オーバーライド』という用語も、同じことを意味する」との記述は、ダグラス社の『オーバーライドの定義』とは異なっている。
MD-11型機における『オーバーライド』とは、Autopilot lockout springが縮み始めたとき以降のことを意味し、それに必要な操縦桿入力つまりCWS値はおよそ20lbsにElevator load feel mechanismによる力を加えた値、つまり20lbsを超える力が加わった時に始まる。
このように、事故調査報告書に使用されている『オーバーライド』の定義は、メーカーによる定義とは明らかに異なっている。

2. 事故調査報告書P31
  同48分15秒から同16秒にかけて、機長側のコントロールコラムフォースが機首上げ側へ顕著に増加し始めた。また、このころから操縦桿の角度も機首上げ側へ顕著に増加し始めた。これらは、速度の増加を抑えるために機首を上げようとして、機長が操縦桿を引いたことによるものと推定される。結果的に、自動操縦装置がオーバーライドされることとなったものと推定される」との記述は、48分15秒から16秒にかけては、操縦桿入力値が20lbs未満であり、メーカー情報によれば『自動操縦装置のオーバーライド』は起こりえない。また、Autopilot lockout springが縮まない限り機体は操縦桿入力には反応せず、48分15秒から48分24秒の間のピッチ変化には、操縦桿入力は全く関与していない。すなわち報告書に記載された「増速を抑えようとした機長の意図」に関する推定の根拠が完全に失われたことになる。48分15秒から16秒にかけてのピッチアップの原因が何によるものであったかの再調査が必要である。

3. 事故調査報告書P36
  以上のことから、Vmoを越える直前でスピードブレーキを展開しても、減速にはつながらなかったものと推定される」については、日本航空のMD-11型フライトシミュレーターを用いて試験を行った結果、FLCH Modeの時にVmoから目標対気速度までの減速に要する時間は、スピードブレーキを展開しない場合に比べて、スピードブレーキを展開した場合は約半分程度に短縮されることが分かった。
Vmo ⇒ 350kt:20秒 (Spoiler Retract)
Vmo ⇒ 350kt:13秒 (Spoiler Extend)

この点に関して、報告書の記載を訂正するか、貴委員会として独自の検証を行い、報告書記載内容の根拠を示すべきである。
 
 判決によって否定された事故調査報告書の内容
1. 事故調査報告書P32
  同26秒、機体は急激に大きなピッチアップとなり・・・」は、別添1−2のDFDR記録より明らかに誤った解釈であり、DFDR記録によれば、急激な機首上げが発生した時点は48分23.5秒頃であり、自動操縦装置が解除する3秒程度前である。この点は、2007年1月9日の706便事故にかかる名古屋高等裁判所控訴審判決でも明確に述べられており、事故調査委員会の解釈は国家機関によっても否定されている。DFDR記録という事実に照らして、明らかな誤りである。48分23.5秒からのピッチアップの原因が何によるものなのかの再調査が必要である。

2. 事故調査報告書P34
  19時48分15秒から同16秒にかけて、機長側の操縦桿に機首上げの力が加わり始めたのは、対気速度の増加を抑えようとして、機長が操縦桿を引いたことによるものと推定される」は、上記1の説明でも明らかなように、この程度の力で自動操縦装置を『オーバーライド』することは不可能であり、実現性のない操作を意図的に行うことはありえない。この点も、名古屋高等裁判所判決において「この時点で操縦輪へのオーバーライドは、機体姿勢に影響を与えない20ポンド以下の力であることに照らせば、少なくとも上記時間帯における操縦輪への機首上げ方向へのオーバーライドが、本件旅客機の機首上げ方向へのピッチ角の変化に影響を与えたとは認められない」と述べられており、機長の意図的なオーバーライド操作との推定は、明らかに誤りである。前述したとおり、このピッチアップの原因が何によるものであったのかの再調査が必要である。

3. 事故調査報告書P37
  自動操縦装置のディスコネクトに伴う急激なピッチアップ・・・・事故当時、自動操縦装置のディスコネクトが操縦桿の引き起こし時におきており、ディスコネクト時に、エレベーターが4枚とも機首上げ側に動いたこと及びそれまで自動操縦装置のエレベーター操舵で打ち消されていたスピードブレーキによる機首上げモーメントが重なったことにより、急激なピッチアップが発生したものと推定される」は、ピッチアップが自動操縦装置のディスコネクトより後に発生していなければ成り立たない論理である。しかし、急激なピッチアップの発生は48分23.5秒頃、自動操縦装置のディスコネクトは48分26秒頃であり、論理的に矛盾する。明らかな誤りである。この点を合理的に説明するために再調査が必要である。
 
 その他、事故調査報告書の内容の誤り
1. 事故調査報告書P37〜39
  ピッチ変動が繰り返されたことについては、ひとつには、いわゆるPIOに陥ったことが関与した可能性が考えられる。・・・・・以上のように、操縦士が機体を安定させようとしてコントロールコラムの操作を繰り返すと、機体はかえって振動運動を繰り返してしまう可能性がある」に関し、事故調査報告書には、操縦操作と機体の反応の間には以下の時間遅れがあることが記載されている。
  (ア) 操縦士が修正操作を行なう際の遅れ⇒0.2秒
  (イ) 操縦桿操作が行なわれてから昇降舵が動くまでの遅れ⇒0.2秒
  (ウ) 昇降舵が動き始めてから実際に機体が動き始めるまでの遅れ⇒1.5秒
このことを勘案すると、操縦士が修正操作の必要性を感じて操作を行ない、実際に機体が反応するまでに1.9秒を要し、修正量が大きすぎて再修正を行なう際にも同じく1.9秒を要する。その間に修正が適正であるか否かを判断する時間が必要になるため、機体が機首上げから機首下げまでの1周期の動きをするには、人為操作である限り〔1.9秒×2+α〕となり、3.8秒以下の周期はありえないことになる。DFDR記録によれば、機体はほぼ3.0秒周期で振動しており、不合理である。
このことは人為的な操作ではなかったことを示唆している。
因みに、この周期振動の原因を、LSASのPitch Rare Damperの過剰修正による発振現象と見れば、判断に要する0.2秒と人為操作に要する0.2秒が不要となり、機体の反応による1.5秒のみが影響することになり、3.0秒での周期振動が可能になる。操縦士の操作が関与できないとすれば、このPIOの原因が何であったのかの再調査が必要である。


以上

 

再調査要請の経緯 ↑

 

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