事故調査委員会にJL706事故再調査を要請

   
 
質問状
 

平成19年9月3日

鉄道・航空事故調査委員会
委員長 殿

ご  質  問

 冠省

当職は,貴委員会がJA8580の航空機事故に関し, 国際民間航空条約第13附属書及び航空事故調査委員会設置法第20条の規定により作成されました平成11年12月17日付け事故調査報告書(以下「本件事故調査報告書」という。)について,以下のとおり質問いたします。

 1 本件事故調査報告書を鑑定書として

愛知県警察本部に送付したことについて

(1)質問に際しての前提事実

運輸省航空事故調査委員会事務局総務課長は,愛知県名古屋空港警察署長に対し,平成11年12月14日付「鑑定嘱託について(回答)」をもって次のような記載の書面に航空事故調査委員会作成名義の平成11年12月17日付航空事故調査報告書を添付して送付されております。

「平成9年6月10日付空捜発第161号及び平成9年10月31日付け空捜発第349号で嘱託のあった標記について,航空事故調査委員会設置法第20条の規定に基づき,別添のとおり航空事故調査報告書をとりまとめましたので,これをもって回答します。なお,本報告書は,同条の規定により運輸大臣に提出した後に公表することとしておりますので,公表までの間は取扱いにご配慮をお願いします。」

なお,添付された「航空事故調査報告書」は,平成11年12月17日に公表されたそれと全く同一のものであり,「この報告書は,日本航空株式会社所属ダグラス式MD−11型JA8580の航空事故に関し,航空事故調査委員会が実施した調査に基づき,国際民間航空条約第13附属書及び航空事故調査委員会設置法第20条の規定により作成したものである」という記載の下に「航空事故調査委員会委員長 相原康彦」と同様の字体で記載されていました。

第13附属書3.1条は,事故調査の目的について,「事故又はインシデント調査の唯一の目的は,将来の事故又はインシデントの防止である。罪や責任を課するのが調査活動の目的ではない。」と定め,他方,設置法第1条は,事故調査は,「航空事故の原因を究明するための調査を適確に行わせるとともに・・もって航空事故の防止に寄与することを目的とする」と規定しています。すなわち,本件事故調査の目的は,刑事訴追等,当事者の責任追及を念頭に置いたものではではなく,もっぱら事故原因を究明して再発防止に役立てるためであることは明らかです。

また,第13附属書5.12条は,「国の適切な司法当局が,記録の開示が当該調査又は将来の調査に及ぼす国内的及び国際的悪影響よりも重要であると決定した場合でなければ」「情報の解析において述べられた意見」等の「記録を事故又はインシデント調査以外の目的に利用できるようにしてはならない(第9版2001年7月)」と規定しています。

我が国は,シカゴ条約の批准国であり,第13附属書は同条約の一部であるからそれを遵守する条約上の義務を負うことは当然の理でありますが,貴委員会は,裁判所の記録開示にかかる決定を受けないまま,T機長の刑事責任追及に資するため,本件事故調査報告書を上記のとおり送付され、あまつさえ、裁判においてもK委員が検察側証人として出廷され、事故調査報告書の証拠使用について容認する証言をしています。

(2)質問事項

上記送付は,本件事故調査報告書が鑑定書であるという意識のもとに送付されたのでしょうか。

仮に鑑定書として送付されていた場合,それは,シカゴ条約に違反する行為ではありませんか。
また,シカゴ条約の一部である第13附属書に違反するものではありませんか。

貴委員会が,本件事故調査報告書を送付された法律上の根拠は何ですか。

今後も捜査機関から航空事故に係る事故調査報告書を鑑定書として提出するよう要請を受ければ,本件と同様にそれを受諾して当該事故に係る事故調査報告書を送付されるおつもりなのでしょうか。

 2 「20lbs以下の力が操縦桿に加わっても,Pitchには影響しない」

ということについて

(1)質問に際しての前提事実

日本航空運航技術部長(証言当時)K氏は,名古屋地方裁判所において,「機構的には,1,2秒であれ,数秒或いは数十秒であれ,自動操縦装置が操縦輪への入力を,それが20ポンド以下であれば機体姿勢に変化を生じさせないようにする,ということに変わりは無い」と証言しております。

同じく日本航空M道機長も名古屋高等裁判所において,「ダグラスから,20ポンドまでは機体のパスはかわらないという答えを得ました。そうしますと,0から20ポンドまで力を掛けていっても,ピッチは変化しないわけです。オートパイロットによってコントロールされてしまいます。」と証言しています。

ダグラス社(現ボーイング社)は,上記事故直後,貴委員会に対し,書面をもって,「入力が20lbs以下ではオートパイロットロックアウト機構のオーバーライドスプリングが長さを変えず、したがって自動操縦装置が駆動する昇降舵の動きに影響を与えない」という回答をしていることを仄聞しております。

(2)質問事項

「20lbs以下の力が操縦桿に加わっても,Pitchには影響しない」ということは,正しいことですか。正しくないとすれば、事故調査委員会としては、どのように理解しておられますか。

貴委員会は,本件事故調査当時,上記の事実を承知されていましたか。
もし承知されていたとしたらどういう方法で承知されたのですか。

「20lbs以下の力が操縦桿に加わっても,Pitchには影響しない」という事実は,本件事故原因を究明するに当たって重要な事実と思うのですが,その点について事故調査報告書は,全く触れていません。それはどういう理由からですか。

逆に19時48分5秒頃から20秒頃にかけての操縦輪への入力が,Pitchには影響を与えたかのような表現が見受けられますが,それはどういう根拠に基づくものですか。

48分15秒頃から20秒頃にかけての操縦輪への入力は,DFDRの記録によっても20ポンド以下であり, そうであるなら自動操縦装置はその入力の効果を打ち消しますので,機体姿勢が影響されないことは明らかです。
然るに,本件事故調査報告書には,「同48分15秒から同16秒にかけて,機長側のコントロール・コラム・フォース(CWS−PITCH)が機首上げ側へ顕著に増加し始めた。また,このころから操縦桿の角度(CCP)も機首上げ側へ顕著に増加し始めた。これらは,速度の増加を抑えるために機首を上げようとして,機長が操縦桿を引いたことによるものと推定される。結果的に,自動操縦装置がオーバーライドされることとなったものと推定される。」と記載されているのはどうしてですか。
 
 3 PIOについて

(1)質問に際しての前提事実

本件事故調査報告書では,「3.3.4 操縦桿に力が加えられていたことと機体の縦安定特性とによる,ピッチ変動の持続」で次のように述べられています。
すなわち,


「19時48分26秒から41秒までの15秒間に,5回の大きなピッチ変動が繰り返された。別添2で説明したとおり,ピッチ変動の繰り返し(ピッチ振動)は,MD‐11型機の縦安定特性並びに操縦士の機首上げ及び機首下げ方向の操縦操作が,相互に影響し合って発生したものと推定される。また,別添2のグラフから,ピッチ変動が繰り返された後,コントロール・コラムの角度の変動が減少したのに合わせて,ピッチ変動が収束する傾向を示していることが理解される。ピッチ変動が繰り返されたことについては,ひとつには,いわゆるPIO(Pilot Induced Oscillation)に陥ったことが関与した可能性が考えられる。」

「PIOが発生した場合,機体固有の安定性が損なわれていないことを前提として,操縦士が,自らの操縦入力がその事象の一部として関わっていることに気がつき,操縦桿を操作することを中止すれば,通常PIOは終息すると理解されている。今回の事故と類似の事故において,ピッチ変動の繰り返しを,『PILOT INDUCED OSCILLATION』あるいは『OVERCONTROL‐RELATED PIO』という表現で説明している航空事故調査報告書の事例もある。しかし,航空機設計者には,PIOは,航空機の開発段階で解決されるべきものとする考え方があり,類似の現象を説明するのにAPC(AIRCAFT-PILOT COUPLING)という用語が用いられるようにもなってきている。APCは,機体の振動運動以外の現象も含む,より広い意味を有している。」

(2)質問事項

PIOに陥った可能性を示唆されておりますが,その始期と終期をお教えください。

どういうことが原因してPIOに陥った可能性が考えられますか。
また,どういうことが原因してPIOは収束したと考えられますか。

PIOに陥る原因は設計上の問題(ミス)ということですが,PIOによる機体の上下振動の責任を当該パイロットに求めることができますか。

貴委員会は,「ピッチ変動が繰り返されたことについては,ひとつには,いわゆるPIO(Pilot Induced Oscillation)に陥ったことが関与した可能性が考えられる。」としながらも,それを事故原因に加え,「安全勧告」や「所見」等で触れなかったのはどうしてですか。

 4 本件負傷の原因をT機長の操縦操作と判断したことについて

(1)質問に際しての前提事実

本件事故調査報告書の「4原因」には,次のように記載されております。
すなわち,
「本事故は,同機が着陸のために降下中,シート・ベルト着用サインが点灯後,機体の急激なピッチ・アップとそれに続くピッチ変動の繰り返しが発生したため,乗客及び客室乗務員が負傷したことによるものと推定される。負傷者は,軽傷であった1名を除き,シート・ベルトを着用していなかったものと推定され,このことが負傷の発生に関与したものと推定される。機体の急激なピッチ・アップとそれに続くピッチ変動の繰り返しは,以下の過程により発生したものと推定される。
 

(1)

同機は,急激な風速の変化に遭遇したため,対気速度が,いったん減少後,目標対気速度を超えて急速に増加した。
自動操縦装置が使用するフィルター処理された対気速度には,指示対気速度に比べ時間遅れがあり,1.1kt/sを超える風速の変化を受けて対気速度を目標速度に収束させるための同装置からの指示が遅れるとともに,機長が操縦桿を操作して機首上げを試みる等,対気速度を抑えようとしたものの,その効果が自動操縦装置の働きによって抑制され,その結果,同機の対気速度は,Vmoを超えるに至った。

(2)

機長が機首上げのため操縦桿を操作し,この結果,自動操縦装置の指示する昇降舵の舵角から,実際の舵角が許容量を超えて変位したため,自動操縦装置がディスコネクトした。

(3)

自動操縦装置がディスコネクトしたため,機長の機首上げ操作の効果を抑制していた同装置の働きがなくなり,同機の急激なピッチ・アップが発生した。

(4)

その後もコントロール・コラムに加えられた機首上げ及び機首下げ方向の操縦入力と同機の縦安定特性の相互関係が,機体のピッチ変動を持続させる状態で継続したことによりピッチ変動が繰り返された。
急激なピッチ・アップが発生し,その後もピッチ変動が繰り返されたことについては,MD11型機の自動操縦装置の特性並びに同型式機の縦安定特性及びピッチ変動が発生した際の回復操作に関し,操縦士が十分に習熟することができなかったことが関与した可能性が考えられ,このことについては,以下の要因が関与した可能性が考えられる。」。

そして,次のように続けている。

(1)

以下の点に関し,
FCOM(AOM)の内容が十分でなかったこと等
  1. 自動操縦装置のオーバーライドについて
  2. 高空におけるマニュアル操縦特性について
  3. Vmoを超過しそうになったときの対処手順について

(2)

シミュレーターを用いた教育・訓練の不十分

(2)質問事項

貴委員会は,結局のところ,本件MD11型機の急激な上昇の要因が「速度の増加を抑えるために機首を上げようとして,機長が操縦桿を引いたことによるもの」であり,本件事故の原因がT機長の「機長が機首上げのため操縦桿を操作し」たという操縦操作にあったと結論付けているのですか。

他方,本件事故調査報告書では,前述のとおり,「ピッチ変動が繰り返されたことについては,ひとつには,いわゆるPIO(Pilot Induced Oscillation)に陥ったことが関与した可能性が考えられる。」という判断も示されていますが,これは一見して矛盾・抵触するように思うのですが,いかが解すればよろしいのでしょうか。

 5 T機長からの事情聴取について

(1)質問に際しての前提事実

航空・鉄道事故調査委員会設置法第15条では,「委員会は、国際民間航空条約の規定並びに同条約の附属書として採択された標準、方式及び手続に準拠して、第3条第1号から第3号までに規定する調査を行うものとする。」と規定し,「 航空機の使用者,航空機に乗り組んでいた者,航空事故に際し人命又は航空機の救助に当たった者その他の航空事故等の関係者(以下「航空事故等関係者」という。)から報告を徴すること。」と挙げています。

しかるに,貴委員会では,T機長に対し,次の3回の事情聴取だけで,肝心の機体の急激な運動が発生した前後の状況,操作,考え方などについての詳細な聴取が行われておりません。
日時 徴収内容
1997.6.9 事故の概要(機長報告書とほぼ同内容)
1997.6.16 AP操作パネルのスイッチの名称,機能。約20分その後雑談。
1998.3.17 救急体制について。約1時間半

名古屋高等裁判所は,次のように判示しております。
すなわち,

「被告人の説明と原判決の違いのひとつは,25.5秒以降に見られる右内側昇降舵の動きである。原判決は,操縦輪の位置も変化しており,操縦輪に加わる力も増加しているのであるから,右内側昇降舵は他の3枚の昇降舵の動きに追従して動いたものであるという。これに対して,被告人の説明は,23.5秒頃に発生した垂直加速度(G)の急減に対抗し垂直加速度(G)を増加させるため自動操縦装置が右内側昇降舵に機首上げ方向への動きを指示したものであるという。この垂直加速度(G)の急減がいかなる原因で生じたのかはつまびらかではないが,このようなGの急減という事態が生じたことは,DFDR及びADASの記録上明白であり,被告人の説明は,傾聴に値するといわなければならない。」。


(2)質問事項

貴委員会は,航空・鉄道事故調査委員会設置法第15条で上記のような規定をしているにもかかわらず,当該機長に対し,機体の急激な運動が発生した前後の状況,操作,考え方などについての詳細な聴取をされなかったのはどういう理由からでしたか。

今後の事故調査についても同様の方針で臨まれるのでしょうか。

 6 事故の再調査について

(1)質問に際しての前提事実

名古屋高等裁判所は,結論として,公訴事実を全面的に否定して「犯罪の証明がない」から無罪であるという結論を下しました。
その根拠は,次の2点です。
  (ア) T機長の操縦操作に意図的に操縦桿を引いたという過失を認めることができないこと。
(イ) 自動操縦装置が解除された段階ではすでに最初の機首上げはその半ばまで進行しており,自動操縦装置の解除が本件旅客機の最初の急激な機首上げに与えた影響は不明であること。

すなわち,T機長の操縦操作について,
「DFDR及びADASの記録上,本件旅客機の機長席側の操縦輪に機首上げ方向に入力があり,ECRMが作動して自動操縦装置が解除されたことは認められるが,これが被告人の減速のための意図的な操作によるものであると証拠上認定することはできない」として,T機長の意図的なオーバーライドはなく,過失行為を否定しております。

また,最初の急激な機首上げについては,
「本件旅客機の自動操縦装置が解除された段階では,本件旅客機は既に他の何らかの原因で相当程度の機首上げを行っていた可能性が高く,自動操縦装置が解除されたことが,最初の機首上げに対してどのような影響を与えたのかは不明といわざるを得ないのであって,本件旅客機の自動操縦装置が解除されたことが被害者らの死傷に繋がったとの点についても認めることができないのである。」と因果関係を否定しました。

本件事故調査報告書は,T機長が,減速のために,意図的に操縦輪を強く引いてこれに過大な力を加えるオーバーライドを行ったかのような内容になっており,また,同人の意図的なオーバーライドにより,706便に急激な機首上げを生じさせたかのような記載になっていますが,名古屋高等裁判所は,これを完全に否定しました。

(2)質問事項

上記名古屋高等裁判所の判断をふまえ,本件事故についての再調査をされる考えを持っておられますか。

以上

貴委員会におかれましては,大変お忙しいとは存じますが,本書面到達後,1ヶ月を目処に回答をしていただきますようお願い申しあげます。

敬具

 

再調査要請の経緯 ↑

 

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